みなさんこんにちは。
今年の7月末に捨てられていたエドモンド本田を保護したことはみなさんもご存知の通りかと思います。
あれからも共同生活を続けていて、本田とは仲良くしていたのですが……
チュンチュンチュン(小鳥の声)
俺「おはよー本田、今日もいい天気だな」
本田「おはようでごわす。全くいい天気でごわすなあ。朝食のちゃんこ鍋も作ってあるでごわす」
俺「いつも悪いな」
本田「それは言わない約束っていつも言ってるでごわすじゃないですか。拾ってくれた恩義、一生をかけて報いるでごわす」
俺「あのなあ、いいんだよ、そんな気にしなくて。恩義だとか、そういうのじゃないから」
俺と本田、毎回毎回こんなやり取りをしている。本当に気にしなくていいのに、いつもちゃんこ鍋を作ってくれるんだ。
本田「……ごわす。じゃあ自分は庭で稽古するので失礼するでごわす」
そう言うと本田は庭に出て、大木に張り手をうちはじめた。
ドスンドスン
百烈張り手の振動が心地よく地面から伝わる。さながら人型マッサージ機と言えよう。振動に心地よさを覚えつつちゃんこ鍋を啜る。
ズズッズズッ
俺「しかし、本田の作るちゃんこ鍋、本当にオーマイコンブ(とても美味しい)だな……。これで店でも開けるんじゃないかねえ……っともうこんな時間か」
ドスンドスン
俺「おーい本田、仕事行くから留守番頼むわ」
本田「おす、任せるでごわす」
俺は本田のためにバイトも増やした。朝から昼はコンビニ。昼から夕方はスーパーだ。忙しいって?そりゃ忙しい。でも弱音は吐いていられない。本田はよく食べるから、食費は稼がないといけないんだ。
もしかしたら食費こそが俺と本田を繋ぐ一筋の“糸”なんじゃないかって、ふいに思うことがある。本田は、食べ物が無くなったら俺から離れてしまうんじゃないかって、そう思うことが時々あって、無性に怖くなる。いや、恋じゃない。ただの友達だよ。でも大切な友達さ。だから、離れたくないと思うのは自然なことだろ?
そう、あいつとは友達。男同士で恋愛なんて、そりゃ今の世の中、そういう形があるのも分かる。でも俺と本田はそういうのじゃないから。
と、誰に話しかけるわけでもなく歩いているとバイト先のコンビニに着いた。
俺「はよざいまーす」
店長「おはよ。今日は休日だし、そんな客も来ないから適当にやっててよ」
俺「了解でーす」
ここのコンビニバイトはラクでいい。街中でもなく、交通量も多いわけでもない、いちバイトとして働く立場としては立地条件が最高に良い。面接に行く前に何度か下調べをして、客が少ないコンビニだと知ったからここで働くことにしたんだ。
俺「っかし本当に客こねーな。ここまで暇だと逆に時間が経つのが辛いんだよなあ。掃除でもしよ」
店長「ああ俺君、エドモンド本田とは最近どうなの?」
店長が急に話しかけてきた。
俺「どうなの?って?」
店長「いやね、男二人が一つ屋根の下、何も起きないわけがない、なんて思ったり」
冗談めかして笑う店長。
俺「あのね、本田とはそういうのじゃないんですよ本当に。あいつ、スト5で弱体化されて、居場所がどこにもないから、本当に可哀相なやつなんです」
店長「そ、そうか。そんな怒らないでくれよ。スト5ってのはそんな酷いのかい」
俺「まあ、あいつも業を背負ってますよ。スト4シリーズで、悪さしてきましたからね。そこはあいつでも否定できない部分です。その業を、スト5によって贖罪しているというか……そんなものです。弱体化されたのはさもありなんでしょうよ」
店長「“業”ね……。私も昔はヤンチャして、なんだかんだあって今はしがないコンビニの雇われ店長。畢竟、人生っていうのはプラスマイナスがイーブンになるように出来ているのかもしれんなあ」
俺「ヤンチャがプラスで、コンビニがマイナスってことですか?」
店長「いや、昔はそう思ってたんだけどね。今は逆だよ。こうやってコンビニで汗水たらして働いて、地域の人とコミュニケーションを取っていることが、私の人生にとってプラスなんだなって……最近はそう思うのだよ」
そう言って遠い目で外を眺める店長。カッコつけてる。
俺「ふっ、店長にも歴史ありか」
店長「ははっ、からかうなよ」
暇な店内、店長と話している間に上がりの時間だ。
俺「店長、時間なんでお先失礼します」
店長「おうお疲れ。本田君にもよろしくな」
上がるついでにそのまま店内で昼飯を買う。俺が決まって買うのはマルちゃんの“バリシャキ!もやし味噌ラーメン”だ。
ハッキリ言って、これは美味い。最後の晩餐があるとしたら、俺は間違いなくこのもやし味噌ラーメンを指定する。シャキシャキするもやしの歯ごたえ、それは最早インスタントという枠を超え、匠の境地にまで達している。
さて、次はスーパーのバイトだ。こっちは話なんかする余裕もない。昼のスーパーはまさしく戦場だ。
俺「はよざいまーす……」
「俺君、早くレジ入って!!」
俺「はいはーい。……たく、こっちは本当に忙しいよな。コンビニと緩急の差がありすぎだよ。ガイルのソニックブームかっつーの」
愚痴を一つ吐いた後、レジに入る。ただひたすら無心で客を捌く。これが戦場なら俺はさながら一騎当千の武将だ。
俺のレジ打ちが早いのは主婦にも周知されているせいか、他のレジに並んでいる人が少なくても俺のところに客が並んだりする。こんな“人気者”はあまり歓迎じゃないのだが。
ピッピ、ピッピ
ひたすらレジを打つ。
-17時
あっという間に時が過ぎる。忙しいのは嫌いなんだけど、時間が経つのが早いってのがこのバイトの唯一の良いところだな。
俺「はぁはぁ、時間なんで上がりま~す」
「「お疲れ様~」」
……
俺「は~、今日も疲れたな。ただいま~」
ガチャ
本田「お帰りでごわす」
ビュンッ
弱スーパー頭突きで本田が俺を出迎える。これはいつものことだ。
俺「いや~、今日も疲れた。スーパーの客多すぎだわ。もうちょっと散らして来いよって言いたくなるね」
本田「ハハッ、大変でごわすな」
バイトの愚痴をいつも親身に聞いてくれる本田。良いやつだ。
本田「夕飯のちゃんこ鍋は出来てるでごわすが、疲れているなら先に風呂にするでごわすか?風呂も沸かしてあるでごわすよ」
俺「あー、今日は先に風呂入るよ、流石に疲れた」
本田「ごわす」
カポーン
本田が庭に建ててくれた銭湯。無料でこんな広い風呂に入れる俺は幸せものだ。
俺「アー、生き返るな……。本田銭湯最高だぜ」
バシャッ
20分ほど湯船に浸かり、風呂から出る。
俺「待たせてごめん、飯食おっか」
本田「お疲れでごわす。疲れた顔してたから辛味スパイスとキムチを追加で入れておいたでごわす。血行促進で元気良くなるでごわすよ」
俺「おっ、いいね。ご飯がすすむやつじゃん」
本田「白飯も沢山炊いておいたから、沢山食べてくれでごわす」
俺「いつもありがとうな」
本田「気にしないでいいでごわす!これは恩義でごわす!」
俺「ははっ」
バクバクバク
俺「あー食った食った!ちゃんこ鍋は最高だぜ」
本田「ごわすな。毎日食っても飽きないでごわす」
俺「明日もバイトあるから寝るわ~」
本田「おやすみなさいでごわす。自分も寝るでごわす」
……
…………
パチ
俺「……ふわぁ~、ションベンションベン。こう寒くなってくると厠も近くなっていけねえな」
俺がトイレに向かおうとしたとき
事件はここで起こった
ヒクッヒクッゴワスゴワス
俺「本田……?泣いてる?」
トイレに向かう途中にある台所で本田がうずくまっていた
ヒクッヒクッゴワスゴワス……プラニ……プラニ……
泣きながら何かを呟いている。近づく俺。
俺「ほ、本田。どうした……?」
本田「ヒクッヒクッ、ゴ、ゴワ……」
俺「どうしたんだよ」
ゴシゴシ
涙で溢れた目を拭く本田。
本田「な、なんでもないでごわすよ!ちょっと目に塩が入っただけでごわす!」
俺「バカ野郎!!」
バチンッ!
思いがけず平手打ちをする俺。それと同時に、続いて言葉が自然と溢れ出す。
俺「何があったんだよ!俺とお前の間に隠し事なんてするな!悩みがあったら言え!!どうしたってんだよ」
本田「プラニでごわす……」
俺「プラニ……?」
本田「ガイルの弱ソニックでごわす」
言われてハッとした。そう、ガイルの弱ソニックは密着で打っても2フレ有利取れるクソ技だということを。
本田「自分の弱スーパー頭突きは-4F。なのに、ガイルの弱ソニックは+2Fでごわす……。同じ飛び道具で、なんでこんな差があるんでごわすか!!」
初めてだった。本田が、自身の感情をこれだけ爆発させるのは5ヶ月を超える付き合いの間でも初めてだった。俺は本田がガイルのソニックでここまで思いつめているなんて知らなかったんだ。
……俺はお前のこと、なんにも考えてやっていなかったのか。いつも台所でこんな風に泣いていたのかよ。俺は……
そう思った刹那-
本田「……ごわす!!」
ビュンッ
俺「ちょ待てよ!!」
“ごわす”……、憤怒、悲哀、嫉妬、ガイルのソニックに対して様々な感情が入り混じったかのような叫び声を上げ、EXスーパー頭突きで家から出ていった。
俺「あのバカ、1本しか残ってないEXゲージ使いやがって!帰りはどうするんだよ!クソッ」
本田を追う。
走る。
ハァハァ。
俺「ダ、ダメだ。スーパー頭突きにはとても追いつけねえ。でも本田を止めないと……」
ハァハァ。
“!?”
チラリと“とあるもの”が視界に入る。
視界に入ったのは駐車場に停めてあったEXソニックブームだ。
俺「悪い、誰のEXソニックか知らないが貸してくれ!!」
ブルンブルン、ファネッフー(エンジン音)
盗んだEXソニックで走り出す
街灯に照らされて行く先は本田
本田、いまのお前は自由か?本当の自由ってのは、そうじゃあないんだ。待ってろよ……。
ビューン
俺「しかし、このEXソニック、妙に速いな……。特別仕様か?これなら本田に追いつける」
このときの俺は知らなかった。このEXソニックがリビングレジェンド“梅原○吾”のものだったということを。
ビューン
見えた、本田だ。
俺「おーい、本田~!!本田~!!!」
ォーイ、ォーイ。深夜の近所迷惑も顧みず叫ぶ。
本田「……!?」
スタッ。
本田が俺に気付いてスーパー頭突きの動作をやめた。
本田「ど、どうして追ってきたでごわすか!タダ飯喰らいの自分なんか放っておいてくれでごわす!!」
俺「バカ野郎!!」
バチンッ!
思いがけず平手打ちをする俺。
俺「お前……、自分を痛めつけるな!それ以上、自分を痛めつけるな!!弱頭突きが-4Fだからなんだってんだよ!俺はそんなのでお前のことを嫌いになったりしねえよ!!」
涙が止まらない。
本田の悲しみに気付いてやれなかった俺自身の愚かさ、そして、黙って悲しみを背負い続けていた本田のことを思うと涙が止まらなかったんだ。
本田「ご、ごわす……ウゥ……」
俺「本田……」
無言で抱きしめる。
身体のデカイ本田が何故か小さく見えて、愛しかった。俺はこのときになって漸く気付いたんだ。
この感情はまさしく“愛”だったということに。でも、言えなかった。男の俺が本田を好きなんて言ったら、嫌われて、離れちゃうのかなって。それが怖くて言えなかった。
好きだよ、本田。心の中でそっと呟く。
俺「なあ本田」
本田「……?」
俺「俺の知り合いがさ、人生にはプラスマイナスがあって、それがイーブンになるように出来ているっていうんだ。まあ良いこともあれば悪いこともあるってことなんだけどさ」
続けて言う。
俺「俺、そうは思わねぇんだ。その人には言わなかったんだけど。俺は人生嫌になることが多かった。というか嫌なことのほうが多いんじゃないかって今まで生きてきた。学生時代はいじめられてたしな。正直な話、俺を産んだ親も憎んだことがある。なんで俺の人生、こんなのなんだってな。努力してこなかった人生のツケがまわってきただけなのに。ただの八つ当たりさ」
本田「……」
俺「……でもな、お前と会って変わったんだわ。人生楽しいって」
目に涙を浮かべつつ、本田に笑みを向ける。
俺「俺、お前と会って、マイナスだった人生がイーブンになるどころか、青天井なくらいプラスになって、人生すげー楽しいんだ。バイト掛け持ちで続けてるのだって、食費が無くなったらお前がいなくなっちゃうんじゃないかって、そう思って……」
言ってしまった。これじゃ告白じゃないか。
俺「あ、いや、これは、違くて、友達としてさ、寂しいじゃん。お前いなくなったら……」
本田「自分は、好きでごわす……」
俺「俺だって好きだよ」
本田「違うでごわす!自分は……自分の好きは、恋でごわす!!この自分の心の奥底から湧き上がってくる気持ちは恋でごわす!!!」
!!
俺「な、本田……。クソッ、俺もお前のこと、愛してるんだよ!!バカ野郎!!!」
再び抱き合う。
俺「……好きだよ、本田!!!」
本田「自分もでごわす!!!!」
もはや俺と本田の間に隠し事はない。そこに言葉も要らず、目と目で通じ合う。愛のぶつかり稽古だ。俺と本田の愛、どっちが有利フレームを取れるかのこったのこった。俺のほうが、愛する気持ちは上だぜ。
人はこれを愛と呼ぶのだろうか。私にとってこれはまさしく初めての愛だったのだ。
【エピローグ】
本田「……そういえば、このEXソニックはなんでごわすか?」
本田を追いかけるために使ったEXソニックに指をさして言った。
俺「あ、これ。お前追いかけるために借りてきたんだ」
本田「それ盗んだっていうんじゃ……」
俺「仕方ねえだろ!お前EXスーパー頭突きで出ていくもんだし、EXゲージも使い切っていったんだから、これ乗らねえと帰ることも出来ねえだろ」
本田「自分のEXゲージの心配までしてくれていたんでごわすか……ありがとうでごわす……!」
俺「気にするな。んじゃ、乗れよ。EXソニックを元の持ち主に返してやろうぜ」
本田「ごわす!!」
盗んだEXソニックで走り出す。後ろに乗せるは恋人の本田。今ならEXゲージがなくたってどこへでも行ける気がした。自由になれた気がした、翼を授かったような気がした。そんな愛が芽生えた夜だった。
PS.来年におこなわれるサマーアップデートでガイルが大幅に弱体化、エドモンド本田の弱スーパー頭突きがガード+3Fになるのはまだ先の話である。