――ウメハラガイルのサマーソルトキックは1発4万4000円だな。私はふとそう思った。
プロゲーマー梅原大吾(ウメハラ)はザ・ビースト、格闘ゲームの神、生きる伝説(リビングレジェンド)とも称される存在である。
街を歩いている人にウメハラと言えば?と聞けばダイゴと返ってくるし、ダイゴと言えば?と聞けばウメハラと返ってくる。多分。
もはや語る必要すらない背水の逆転劇。ゲーマーなら知らない人間は居ないだろう。
1フレーム、光速にも匹敵する僅か60分の1秒の判断で生死が決まる世界――。
その世界で超絶なコマンドテクニックを魅せ、ジャスティンチュンリーの攻撃を全てブロックし、反撃に転じて勝利。これを超える格ゲーの試合は未だに出てこない。
冒頭の話に戻ろう。
ウメハラガイルのサマーソルトキックは1発4万4000円。これくらいの価値がある。
そう思ったのは先日アマゾンプライムビデオで“二郎は鮨の夢を見る”を見たからである。
この番組は鮨職人“小野二郎”に密着したドキュメンタリーです。私はこのドキュメンタリーを見るまで、小野二郎さんのことは知りませんでした。
小野 二郎(おの じろう、1925年10月27日 – )は、日本の鮨職人。
静岡県天竜市(現・浜松市天竜区)生まれ。2021年現在、ミシュラン史上最高齢の三ツ星シェフだった。
7歳で地元静岡県の料理店に奉公に出る。その後東京で修業。1951年に鮨職人となる。1965年に独立して、銀座の現在地にすきやばし次郎を開店。70歳で心筋梗塞を患って以降、禁煙している。手の保護のため、外出時は必ず手袋をはめている。
※Wikipediaより引用
自分はこのドキュメンタリーを見て感動しました。
常に向上心を忘れないひたむきな姿勢。食材へのこだわり。外出時に手袋をはめるほど大切に扱う自身の指先。
小野二郎さんが銀座に構える店“すきばやし次郎”の鮨の値段は決して安くはない。
品書きは「おまかせコース」のみで、その値段はなんと4万4000円から(2021年12月時点)である。
この価格をどう見るか。自分は、小野二郎さんが握る鮨ならばその値段に見合う価値があると思う。
要は、鮨を見るか人を見るかってことではないかと自分は思った。
たぶん鮨だけで見るなら4万4000円を払わなくとも同じような味の店でもっと安く済ませられるところが他にあるはずだ。
それでもなぜすきばやし次郎を愛する人が多く居て、これだけ高い値段の鮨屋が続いてるかと言ったら、それは小野二郎さんが握っているからではないかと思う。
小野二郎が握るからこそ4万4000円の価値がある。
これは格闘ゲーマーの梅原大吾氏も同じなのではないかと思った。
小野二郎さんと同じように、日々研鑽を重ね、自堕落な生活はせず、格闘ゲームにおいても私生活においてもプロとしての妥協なき生き様を体現する梅原大吾氏。
ウメハラ氏が『ストリートファイター5』のメインキャラとして使用しているガイル。
ガイルの有名な技サマーソルトキック、この技は誰だって出せます。
十字キーの下を溜めて上を押すと同時にキックボタン。これで出る簡単な技です。幼稚園児は流石にムリでも、小学生以上なら出せる技だと思う。
この技は誰でも出せるけど、ウメハラが使うかそこらの一般人が使うかではその価値は大きく異なる。
格闘ゲームに全てを捧げてきた人間、ウメハラの使うサマーソルトキックははっきり言ってその価値は違うだろう。
ウメハラガイルには、格闘ゲームに全てを捧げてきた生き様が染み付いている。
だからこそ、ウメハラガイルのサマーソルトキックには4万4000円の価値があると私は思ったのだ。
寿司にしたって、小野二郎さんではなくそこらのオジサンが握ったのならまず4万4000円の価値は無い。材料は同じだとしてもね。それと同じことなのです。
プロフェッショナルとして格闘ゲームに妥協せず生きてきた人間が使う技だからこそ、その技は業となり、別次元の存在に昇華されるのだ。
ガイルのサマーソルトキックは普通の人間が使えばサマーだけど、ウメハラが使えばウメサマーになる。リュウの波動拳は普通の人間が使えばただの波動拳だけど、ウメハラが使えばウメ波動になる。
“ブランド”と言うと途端にいやらしく陳腐なものに聞こえてしまうが、要はそれと同じです。
小野二郎が握った鮨には価値があるし、イチローが握ったバットには価値があるし、ウメハラが使うサマーソルトキックにも価値がある。
ひとつのことに人生を捧げてきたプロフェッショナルだからこそ、その人が触れるものに価値があるのです。
だから自分は、ウメハラガイルのサマーソルトキックにも4万4000円の価値があると思った。
自分は去年1月にウメハラさんと戦ったときの試合を家宝としてリプレイリストに保存してあります。
どちらも試合には負けましたが、1ラウンドは取ることが出来ました。
生きる伝説と戦えたことは、私にとって冥土の土産になります。
ウメハラさんと戦うためにはダイヤ以上にあがって配信でスナイプするしか方法はありません。グラマスくらい強くなればラウンジにも入れますけど、それ以外の人間がウメハラさんと戦いたいってなったら意地でもダイヤ帯に上がるしかない。
自分はウメハラさんと戦うためにダイヤ帯を目指しました。そしてその対戦が実現したときは手が震えて歓喜しました。
ウメハラさんにとっては有象無象と戦った、ただのランクマの1試合ですが、私にとってはそれだけ記憶に残る大切な試合だったのです。
これだけ人に影響を与えられる存在だからこそ、まさにプロフェッショナルと言えるのです。
ウメハラ氏はCPT2021日本大会3に優勝し、カプコンカップへの出場も決まっている。
反射神経も重要な格闘ゲームの世界において、歳を重ねても未だに現役でありトッププレイヤーで居続けるウメハラ。
後進の育成にも尽力し、初心者大会も積極的に開催。業界全体の成長も考える視野の広さ。まさにトップオブトップ。絶対王者である。
P.S.「二郎は鮨の夢を見る」はとても面白いドキュメンタリーなので、アマプラ会員は視聴しましょう。