ストリートファイター6 格ゲーラノベ

【格ゲーラノベ】『ファイティングレジェンディア』第2話 友情から愛情へ

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前回のあらすじ。

自身を最強だと疑わずに生きてきたキンバリー使いのタカシ、しかし、井の中の蛙だったことを別のゲーセンで出会った“屈伸のヒロシ”と戦って思い知る。

試合には勝ったものの、世界にはまだまだ強いプレイヤーが居ることに気付かされたのであった。

試合後に握手を交わし、強さだけを求めていたタカシの心の中に新たな芽が生まれていたのを裡に感じた。

前回の記事

『ファイティングレジェンディア』第2話 友情から愛情へ

格ゲーラノベ第2話

※この物語はフィクションです。実在のゲーム、キャラクター、団体名とは一切関係ありません。

ヒロシとの激戦から夜が明けた。

清々しい気持ちで一杯だった。やりきったっていうのはこういうことか。

「ババア、メシ!!」

階段を降りて母親に叫ぶ。気持ち良い朝だ。

「ハイハイ、用意してあるよ。お前の好きなサッポロ一番みそラーメンと白飯だよ。」

「おう。気が利くなババア。」

サッポロ一番みそラーメン、俺がガキの頃から変わらない味。盛者必衰、栄枯盛衰、雨ならずして花なお落つ……そんな世の中においてただ一つ変わらないもの。それがあるとしたらサッポロ一番みそラーメンの味だけだ。

「ふー、食った食った……。さて、ラウンドツーに行くか。ヒロシ居るかな……。」

ガタンゴトンガタンゴトン

電車に揺られ、二駅先のゲーセン“ラウンドツー”に向かう。

先日来たとき同様、ラウンドツーは相変わらずの盛況だった。

ヒロシが居るかどうか分からないが、メアドの交換もしていない以上、会える機会はここしかない。ゲーセンの人間関係なんてそんなものだ。

そいつがどんな職業だったり、何歳だったり、そんなことは知らない。“ヒロシ”が本名かすら分からない。そして、そんなことをゲーセンで聞くのは無粋でしかない。生まれや育ちも関係なく拳で語り合うだけの場所、それがゲーセンであって、それがゲーセンの姿でいいのだ。

「「「出た、ヒロシの高速屈伸!!」」」

筐体が見えずとも、ギャラリーの歓声でヒロシが居るのは分かった。

ヒロシと対戦していたプレイヤーが敗北して席を立つ。ギャラリーはビビって乱入しないみたいだ。

「戦わないならどけよ、お前ら。」

「おい、アイツって昨日ヒロシを倒した……」「ああ、今日も来たのか」

そんなギャラリーの声が聞こえてくるが、黙ってコインを入れる。

チャリン

ヒアカムズアニューチャレンジャー!!

先日同様、俺はマイキャラのキンバリーを選択。

キンバリーの顔画像

一瞬間が空いて、ヒロシが持ちキャラのリュウを選択した。ヒロシも俺に気付いたな。ここらでキンバリーを扱えるのは俺しかいないし。

「ヒロシ、昨日と同じ、熱い勝負を頼むぜ……!」

ガッガッガッ

ドッドッドッ

キンバリーとリュウの激しい打撃戦がゲームセンターに響く。そこに歓声は起きない。人間が素晴らしい試合を目にしたときに起きる現象は、歓声ではなく沈黙であった。

ギャラリーが呟く。

「な、なんだよコイツらの試合……。」「お前昨日いなかったのか?ヒロシ倒したんだぜ、あのキンバリー使い。黙って見てろ。」「お、おう……。」

ガッガッガッ

ドッドッドッ

「真空ゥ……波動拳!!」

ブオーン

リュウ、WIN!!

「クソ、負けたか……。高速屈伸が対策出来ても、やっぱヒロシはツエエな。」

昨日勝てたからといって、今日も勝てるとは限らない。それが格闘ゲームの面白いところだ。

「おい、オレはプレイしないから誰かやっていいぞ。」

対面からヒロシの声が聞こえる。

「よぉ、久しぶり。って言っても昨日ぶりだな。」

ヒロシが笑いながら話しかけてくる。その屈託のない笑顔に何故か心臓の鼓動が早まった。俺はそのとき、“その感情”がなんなのか理解できていなかった。

「お、おう。今回は負けちまったな。やっぱお前強いわ。」

「お前が昨日勝ったとき、高速屈伸の弱みも言ってきただろ?だからこっちもそれを仕掛けてくる前提の動きをさせてもらった。今回勝った要因があるとすれば、そこだな。」

「ハハ、敵に塩を送った形になったか。でもヒロシのことだ、言わなくてもそのレベルの対策はしただろ。」

「どうかな。」

格ゲー談義に花が咲く。俺は今までずっと1人で戦ってきた。そして、俺についていけるプレイヤーも居なかった。友達や馴れ合いなんて枷にしかならないと思っていたが、ヒロシと話しているのは楽しい。この時間(とき)が永遠に続けば良いと思った。

「飯、食いにいかね?」

ヒロシが唐突に切り出す。

「オ、オレとか?」

「お前しかいねーだろ。」

ヒロシが笑いながら突っ込むが、俺は動揺していた。これが格ゲー仲間ってヤツなのか?

何故か身体が火照る。なんだよコレ……。

「あ、ああ。いいよ。いこうか。」

断るのもおかしいし、俺はヒロシともっと会話がしたい。飯の誘いを受け、近くのファミレスに向かった。

注文を終え、ヒロシが切り出した。

「そういえばお前知ってるか?宇治原紳助。」

「ウジハラシンスケ?ああ、名前だけは知っている。山に籠もって格ゲーの修行をしているっていうジイサンだろ。実在するかどうかすら怪しいけど。」

「そのジイサンが山籠りを終えて街に下りてきたらしいんだ。」

「へぇ。街に……って実在してるのかよ。」

「ああ、ダチが駅前で見たって。弟子っぽいのも連れていたらしい。もしかしたら、ラウンドツーにも来るかもな。」

「だとしたら俺が潰すまでだ。」

「俺たちには荷が重いかもな……。正直言って、本物の宇治原なら俺たちがかなう相手じゃねえよ。ガキの頃にスト4で戦ったことがあるが、ありゃあ別次元だ。」

ヒロシにここまで言わせるのか。俄然戦いたくなってくる。

「ジイサンなら反応も衰えてるだろ、俺たちならいけるって。」

弱気になっているヒロシを励ます。

「……だといいがな。宇治原が戻ってきたなら、荒れるぜ、この業界。」

ヒロシが窓越しに行き交う人々を眺める。

「外のヤツらは気楽でいいよな……。」

ヒロシが誰に言うわけでもなく小さく呟いた言葉が聞こえた。それほどなのか、宇治原紳助……。

誰のためでもない、ヒロシのために、宇治原というジイサンを倒したくなった。

それからとりとめもない会話をして、ファミレスを後にした。

「じゃあまたな。」

「おう。」

一緒に飯を食う仲になったが、連絡先の交換はしない。ゲーセンに行けば会える。それだけの関係で良い。そう、それだけで……。それがゲーセンの流儀だ。

電車に揺られ、家に着く。ベッドの上に大の字で寝転がり、想う。

「ヒロシ……。」

“よぉ、久しぶり”

ヒロシが笑顔で話しかけてきたあの風景が頭にこびりついてリフレインする。

胸が痛い。

自分の中でザワついていた、認めたくなくて押し殺していた感情が溢れ出てきそうだ。

苦しい。ヒロシ……。

俺は、お前が……。

トクン

「好きなんだ。」

第2話 友情から愛情へ FIN

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