この物語はとあるモザンビーク(モザンビーくん)の生き様を記した冒険譚である……。
モザンビーくん「ヘイヨッ、マイチェクワンツーワンツー。俺はキンキャニ生まれ、スカルタウン育ち、悪そうなショットガンは大体友達ヘイヨッ」
EVA8「は?」
マスティフ「はぁ?」
ビクッ
学校の屋上でラップの練習をしていたモザンビークくん。クラスメイトのいじめっ子EVA8とマスティフに見つかってしまう。
モザンビーくん「アッ、EVA8くん、マスティフくん、やぁ……。」
EVA8「お前いま何つった?ショットガンは大体友達だって?」
マスティフ「お前なんかと友達なわけねーだろ!しかも下手くそなラップで歌いやがってからに」
ボコッ
イライラを抑えきれない顔つきを浮かべ、銃床部分で小突くEVA8。
モザンビーくん「い、痛いよ……」
EVA8「お前運が良かったな。今日は俺、“ダブルタップ”家に忘れてきたんだよ。手加減してやるから、ちょっと大人しく撃たれろや」
バンバンバン
EVA8の容赦ない射撃がモザンビーくんの胴体にヒットする
モザンビーくん「ぬ、ぬわーーーー!!」
バンバンバンバンバン
モザンビーくん「きてはぁーーーーーっ!!」
もう止めてくれ。そんな気持ちを込めた叫び声を上げてもEVA8の射撃は無慈悲にも続く。
EVA8「ヒャハハ、雑魚武器の鳴き声は心地イイなあ」
マスティフ「顔はやめろよ。“センコー”に見つかるとウルセーからな」
EVA8「わーってるよ。だいたい胴打ちがショットガンの基本だろが」
バンバンバン
モザンビーク「ぐわーーーーーーーーーー!!!」
バンバン……
EVA8「チッ、弾切れか」
マスティフ「今日はこのくらいでいいだろ。やり過ぎると死んじまうぞ」
EVA8「ちげえねえや」
モザンビーくん「はぁ、はぁ……」
マスティフ「お前よぉ、次くだらねーラップ歌ったら、本当に“挽き肉”にしてやるからな?」
!?
モザンビーくん「……」
EVA8とマスティフが去ったあと、モザンビーくんはそのまま座り込んでいた。
屋上から夕陽を眺める。
モザンビーくん「ははっ、綺麗な夕陽だ……。……僕、なんでこんな弱いんだろ。なんで生きてるんだろ……」
不意に涙が零れ落ちる。
モザンビーくん「こんな自分の弱さ、努力でどうにか出来るのかな。お母さんはなんで僕を産んだんだろう。死んじゃう前に、聞きたかったな」
翌日
キーンコーンカーンコーン。
憂鬱だ。昨日の今日だし、EVA8くんとマスティフくんとは極力目を合わせないように行動しよう。
ガッ
教室に向かう途中、突然肩を掴まれる。それが誰かは容易に想像がついてしまう。
EVA8「よぉ、未来のラッパーくん」
モザンビーくん「や、やぁ……」
EVA8「放課後になったら屋上で昨日の続きな。今日は“ダブルタップ”持ってきたから楽しみにしとけよ」
マスティフ「今日は俺も参加するぜ。昨日ちょっとババアに怒られてストレス溜まってんだ」
死刑宣告。最早逃げ場はない。死刑執行の時が来るのを待つだけだ。授業が永遠に続いて、放課後が来なければいいのに。
ロングボウ先生「……で、あるからして、ダウン時のピン連打は味方に迷惑なので絶対にしないように。……おい」
モザンビーくん「……」
ロングボウ先生「おい!」
ズドンッ!!
モザンビーくん「痛っ!」
ロングボウ先生「お前話聞いてるのか!前回のテストも赤点だったし、しっかり授業に取り組みなさい」
モザンビーくん「す、すみません……」
クスクス。モザンビーくんを嘲ける笑い声が教室に響く。
運動も出来ない、勉強も出来ない、僕には何があるんだろう。EVA8くんもマスティフくんも、勉強は出来ないけど体育は出来る。僕以外のみんなは、何かしらの長所がある。でも僕には何もないんだ。
キーンコーン
ロングボウ先生「今日はここまで。家に帰ったら復習忘れるなよー」
さて、現実は非情。放課後が来てしまった。EVA8くんとマスティフくんがニヤニヤしながら近寄ってくる。
EVA8「んじゃ、屋上いこっか」
EVA8くんとマスティフくんに連れられて屋上へ向かう。
階段を一歩一歩上がる。せめて、少しでもゆっくりに。せめて、少しでも長生きできるようにゆっくりと歩を進める。この先に待ち受ける結果は変わりないのだが、生に執着するのは生き物の性だろう。
EVA8「トロトロ歩いてんじゃねえ!」
ガチャ
屋上へ来てしまった。死刑執行の始まりだ。
EVA8「じゃあ、始めるか。朝にも言ったけど、今日は“ダブルタップ”装備してるから昨日とは威力が違うぜ?」
マスティフ「今日は俺からやらせろよ。お前は昨日沢山楽しんだだろうが」
EVA8「チッ、わかったよ。俺が楽しむぶんの体力は残しておけよ」
マスティフ「へいへい」
モザンビーくん「……」
マスティフ「分かっているとは思うが。俺の一撃はEVA8の比じゃねえからな。しっかり耐えてくれよ」
EVA8くんが連射の効くフルオートショットガンに対してマスティフくんは連射が効かないセミオートだ。だが、一発の威力はマスティフ君のほうが上だ。僕の身体、耐えられるだろうか。
バンッ
モザンビーくん「ぐわーーーーーーー!!!!」
痛い。猛烈に痛い。僕は長男(一人っ子)だけど、この痛みに耐えられる気がしない。マスティフくん、なんでこんな強い一撃があるのに、その力を人を虐めることに使うんだ……。何故その力を正義の為に使わないんだ……。
マスティフ「はーっはは、一発でこの鳴き声よ。どうよEVA8。お前より俺のほうがつえーぞ」
EVA「あ?こっちだってダブルタップ使えばお前に負けねえよ」
マスティフ「はいはい、そういうことにしておくか」
バンッ
モザンビーくん「ぬわーーーーーーーーーっっ!!」
バンッバンッ
マスティフくんの執拗な射撃で意識が薄れかかったそのとき、誰かがやって来た。
???「お前ら、何やってんの?」
EVA8「あ?見りゃ分かんだろ!雑魚武器を虐めて……」
振り返りざま、言葉を吐き終わる前にEVA8くんが硬直した。
EVA8「ピ、ピピピ……」
ピースキーパー「お前ら、何やってんの?」
EVA8「ピースキーパーさんっ!おいマスティフ、撃つのやめろ!!」
マスティフ「ピースキーパーさん!?」
ピースキーパー……名前だけは聞いたことがある。APEX高校の番長だ。まさか、僕たちと同じショットガンだったなんて……。
ピースキーパー「……いいから続けろよ」
EVA8「い、いえ……ハハ」
ピースキーパー「ッハァ……、おい、そこの虐められてるモザンビーク」
モザンビーくん「……ッ、は、はい」
ピースキーパー「お前、ひょっとして自分が弱いと思っていないか?」
モザンビーくん「えっ?」
唐突に番長から告げられた言葉。えーと、つまり、その言い方だと、僕が強いみたいな言い方なんだけど……。
モザンビーくん「そ、それはどういうこと」
ピースキーパー「これ、着けてみろ」
言うが早いか、ピースキーパーがモザンビークの足元に“ナニカ”を落とす。
モザンビーくん「これは……?」
ピースキーパー「通称ハンマーポイント。お前の秘められた力を開放するアイテムみたいなもんだ。これ知らずに生きてきたってことは、今まで散々辛い思いしてきたんだろうな。察するぜ」
モザンビーくん「ハンマーポイント……?」
ピースキーパー「いいから黙って着けろ!!」
モザンビーくん「は、はひぃっ!!」
ピースキーパー番長の怒声にビビり、そそくさと装着した。
ガチャン
ゾクッ
鳥肌が立つほどの電流が身体中を駆け巡った。そして、身体の中から力が溢れるのを感じた。
ドクン、ドクン
モザンビーくん「なんだこれは……この気力の充溢は……」
ピースキーパー「それが、お前の本当の姿だ」
EVA8「あれがモザンビーク?別人だぞ……」
マスティフ「番長がハンマーポイントだとか本当の姿とか言ってたが、どうなってやがる……」
ピースキーパー「ちょっと撃ってみろ」
モザンビーくん「は、はい」
ズドンッ
!?
モザンビーくん「ア、アワワ」
遠くの家屋が一瞬にして廃屋になってしまった。これが僕の力……?
EVA8「な……」
マスティフ「今の、モザンビークが撃ったんだよな……?」
ピースキーパー「自分で撃っておいて何ビビってやがる。それがお前の本来の力だよ」
モザンビーくん「これが僕の、本来の力……?」
ピースキーパー「ああ、つまりだな。お前は虐められる側の人間なんかじゃないってことだ。そこにいるEVA8やマスティフなんて、お前が本気出したら“死ぬ”ぞ?」
EVA8「ビクゥッッ!!」
モザンビーくん「僕は……」
マスティフ「や、やめ……やめてくれ!お前に撃たれたら本当に死んじまう!」
EVA8「今までやったことは謝る!許してくれ!!」
モザンビーくん「僕は…………」
ザッ
振り返り、ピースキーパー番長に向かって言う。
モザンビーくん「僕は、この力を正義の為に使いたい。平和を守るために」
ピースキーパー「フッ。どうやら、お前に救いの手を差し伸べた俺の目に間違いは無かったようだな」
モザンビーくん「それはどういう……?」
ピースキーパー「お前みたいな正義感溢れる男を探してたのさ。これから俺たちは激動の時代を迎える。詳しくは言えないが、近いうちに戦争が起こる。そのためにお前が必要だ。来てくれるか?」
モザンビーくん「わ、わかりました!僕の力が平和に繋がるなら!!」
EVA8「俺たち……」
マスティフ「助かったみたいだな……逃げよう」
-これは、一介のモザンビークが“ピースキーパー”に成長するまでの冒険譚である。
第2話「転校生美少女、30-30リピーターに恋をする」に続く。